タイムズ・スクエアにあるB.B. Kingの店にはいつか行こうと思っていた。確かにブルース系のクラブとしてはNY随一なのだが、めぼしいギグはいつも火曜日だし全席自由なのでちょっと気合がいる。この1月はなぜかジョニー・ウインターが3晩も出る。
最近のジョニーの写真を見ると、なんとステージで座っている。そうか、もう齢だから一晩立ってるのは無理なのか、だったら今のうちに見ておかなきゃ、とようやく重い腰を上げることにした。最初の2晩は正月明けすぐで、kameが風邪気味だったので忘れているうちに過ぎ去った。3晩目の数日前、Pollstarからのお知らせで思い出して即決。Ticketmasterで買うと手数料がバカ高いので、どうせ自由席なので前日直接買いに行った。近くだとこれができる。
YelpでBBの店の予習するとけっこう評価が分かれている。良いアーティストが出る日に早めに行って良い席を確保し、食事は高くてまずいものと割りきっておく、というのが大筋で正しいアプローチのようだ。
開場の6時少し前に到着。店の前に10人ぐらいの行列ができている。まあこれぐらいなら大丈夫だな、とちょっと安心。待ち時間は短かったが、それでも暖かい日で良かった。店内に入るとちょっと後ろの方、客席が一段高くなっているところの最前列に案内された。一瞬あれ?と思ったが、前の方はなぜかもう客が入っている。なーんだ、VIP席があるんじゃねーか、とちょっと不満だったが、よく考えるとこっちの席の方がステージがよく見えるから身体の小さいlulunとkameには向いている。小さい6人用テーブルなのでちょっと窮屈そう。身体の向きが変えられないので首が一方を向き続けることになる。
ここもチャージの30ドルとは別に一人最低10ドルの飲食をしなければならない。それでも40ドルだから安いもんだ。ちょっと奮発してリブのBBQ、それとバーガーを注文。ビールはMagic Hatがこの店専用のBlues Brewというのを出しているので迷わずそいつを注文。柑橘系でさっぱりしているが、適度にコクもあってホップの香りが豊かだ。こいつはうまいぞ。Magic Hatエライ。タップがサックス型なのも、コースターがレコードのラベルなのもよろしい。
料理の方は確かに割高だがそれなりにまともだ。リブはかなり柔らかくてとろとろ、もう少しスモーキー感がほしいところだが悪くない。バーガーもちゃんとしている。ほかのテーブルではナチョスがよく出ていたようだが、確かにビールに合わせるには良さそうだ。
待つこと約2時間。地下なので3Gの電波が届かないし、wifiもないのが辛い。まだ二人だから間が持つけど一人だったら退屈するな。隣に来た一人客はlulunとkameが相手をしてくれなさそうなのでほかのテーブルに移っていった。ごめんよ、そういうお付き合いは苦手なのだよ。こういう時ガイジンなのは楽でいい。
客席は圧倒的にオッサンが多く、ここまで男が多いライブは初めてだ。ジョニーはギター野郎大好きというタイプで、曲作りや歌で聴かせるわけではないからなあ。
ようやく前座のOli Brown Bandが登場。開場はほぼ満席になっている。待ちくたびれた客席はけっこう盛り上がって歓迎している。ギター、ベース、ドラムスというシンプルなトリオで、最初の曲はまるでスティービー・レイ・ヴォーン。なるほど、ブロンドのテレキャスでテキサス風の突っ込みバリバリギターね、はいはい、と思って聞いていたが、腕は確かだしバンド全体のサウンドも輪郭がはっきりしてなかなかの実力だ。次のEvil Soulという曲はカントリーで鍛えました、という感じの速弾きで、ジョニー・ウインターの前座にふさわしい。そういえば髪型からしてアルバート・リーに似てなくもない。
こいつらすごいぞ、と思いながらけっこう引きこまれて観ているし、客席も好意的なのだがOli本人は反応が悪いとご不満の模様で、皮肉をちりばめて煽動する。明らかにイギリス英語なのであれ?テキサスじゃないの?と思ったが、実は英国人のようだ。シニカルなのはこれで納得。でもこれもパフォーマンスのうちかな。
ストレートなブルースというよりはソウルやファンクの要素が濃いブルースロックという感じのバンドだが、かなりの実力だ。まだ若くてたたみかけるようなエネルギーの演奏はライブならでは。BBの店がこういう力のある若手の登竜門的存在になっているのだとしたら嬉しいなあ。そのうち一度ヘッドライナーになって帰ってきてほしい。いや、その前にじっくり観てやりたいぞ。
40分ほど演奏してOli Brown退場。機材の片付けも自分たちでやってる。しばらくステージのセッティングが続いて、ようやくジョニーのバンドが登場。まずバンドだけでブギを1曲、その音を聴いてあれ?なんかぐしゃっとしてるな、とちょっと落胆。それだけOli Brown Bandの音がクリアだったのだろう。実はOli Brownを聴きながら、これはこれですごいけど真打はもっとすごいんだよな、と思っていたのだが、これはちょっと肩透かし。でもlulunはこっちを聴いてやっぱり貫禄が違う、と思ったらしいからわからないもんだ。
2曲目からジョニー登場。ステージ左手からよろよろと歩いてくるところを見て、ああ、やっぱりずいぶん弱ってる、これじゃ昔のようなギターは期待できないな、と思ったら果たしてその通りだった。あのキンキンいうサウンドは昔のままだが、鬼気迫る速弾きはもちろんないし、なんといっても一度もチョーキングをしない。そうか、握力がなくなってチョーキングは無理なのか。昔は弦の細さにモノを言わせて2音ぐらいのチョーキングは平気だったのになあ。まだ70ぐらいなのでそれほど高齢ではないので、きっと大きな病気をしたに違いない。若い頃にはかなり不摂生してるだろうから無理もないか。5歳ぐらいしか若くないリチャード・トンプソンはあれだけ元気なんだけど。
でも曲目はアップテンポのブギやロックンロールが多く、そういう意味では元気なステージではある。ジョニーはほとんど表情を変えずに、客席に語りかけることもなく歌って弾き続ける。ヒューバート・サムリンを観ているともういいですから、お休みになってくださいと言いたくなるが、そういう感じではない。衰えても本人はまだまだやりたいのかな。まだそういう意欲があって、体力的にはきついはずのツアーに出て、こうして演奏してくれるということはファンとしては喜ぶべきことなのだろう。ここで客席にいる者の役目は精一杯の声援を送ることだ。
ギターは一貫してErlewine Lazer一本だけ。ジョニーは白子だし体が弱いので軽いギターしか持てないのだ、という話が本当かどうかは知らないが、ずいぶん前からこいつを使っているので気に入っているのは間違いない。ずっと座ったままだったのだが、急に立ち上がって弾きだしたので、ああ、これが最後の曲なんだな、とすぐにわかった。客席の各地でカメラが「立ったジョニー」の映像を記録しているのが妙におかしい。
バンドのメンバーに支えられるように退場、と思いきや、ステージの端まで行ってなんとギブソン・ファイアバードを持って戻ってきた。おおっ、そいつを弾いてくれるのか、とちょっと感動。アンコールの2曲はスライドで、これは指弾きより昔のジョニーらしさを感じられる。そうだよ、これならチョーキングできなくてもいいんだからもっとやってくれても良かったのに、とちょっと残念。Mojo Boogieなんか聴きたかったなあ。
この間、ステージ両サイドのスクリーンには昔のジョニーの写真がスライドショーで流れる。ついついそっちに眼が行ってしまうのはちょっと失礼かな。今のステージのジョニーと昔の写真を並べるとちょっと切ないものがある。
たっぷり1時間半ほどの演奏が終わって、外に出ると店内よりも明るくて眩しい。そういえばここはタイムズ・スクエアだった。駅に向かって歩きながらジョニーは今どんな想いでいるのだろうかと想像してみる。疲れたけど充実した晩であった、と思ってくれているなら嬉しいが。
ありがとう、ジョニー。












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