評価:5/5点
今回ディジョンに来たのはこのStéphane Derbordが目的だった。2001年、当時Thibertという名だったこのレストランをたまたま訪れて以来、再訪する日を夢見てきたのだ。そのオーナーシェフのThibertさんはその後間もなく引退し、弟子のDerbordさんが店を継いだということらしい。
場所はディジョンの中心部からはちょっと外れたPlace Wilsonという大きな広場に面したホテルの一角だ。開店直後、7:30を少し回った時点で到着。店の雰囲気はThibert時代の重厚な感じから明るくややカジュアルな感じに変わっている。なんでもThibert時代は星付きだったそうなので、代替わりとともにより気軽な店に方針を転換したようだ。以前は入っていすぐのホールに座ってゆっくりアペリティフを飲みながらメニューを吟味するものだったが、今回はすぐに天窓の下の明るいテーブルに通された。あいにく雨模様だが天気が良ければ気持ちが良さそうだ。
メニューはウェブサイトで一通り予習していたが、さらに吟味したうえでムニュを二種類、Terroir et Création(EUR 48)とGourmet Gourmand(2皿付きでEUR 62)を選択。
Stéphane Derbord 分厚いワインリストのうちハーフボトルのページ(赤)
ワインリストも見るのが面倒になりそうなほどで、ハーフボトルしか頼めないのはかえって幸いしたかもしれない。飲んだのはSavigny-Lès-Beauneの"Les Lavières" 1er cru(赤)とChablis "Montée de Tonnerre" 1er cru(白)。料理が上等なので奮発してどちらもプルミエ・クリュだ。
Stéphane Derbord 分厚いワインリストのうちハーフボトルのページ(白)
前回も確か同じで戸惑ったのだが、ここは注文していないつもりの品が出てくる。最初に出てきたアミューズもまさにそれ。
出てきたのはjambon persilléマスタードソース、comtéチーズ入りクラッカー、ゴマ入りスティックのスモークサーモンのクリーム添え。クラッカーの下にはベーコン入りパン。どれも丹念に作ってあり妥協がない。予想する味よりさらに一段上を行っている。うーむ、さすがだ、と思わず唸る。
lulunが頼んだムニュ、gourmet goumandの一部
写真は高い方のムニュの前菜、Trois Petites Préparations Réalisées au Goût du Jour。左から野菜の生春巻き(アルファルファほか?)、トマトとレモンの酸っぱいガスパッチョとグリーンピース入りキュウリスープ、白身魚と赤ピーマンのゼリー寄せキャビア入りソースと揚げパセリ添え。前菜はどちらのムニュもほぼ同じだが、高い方のムニュは品数が一つ多く、安い方は生春巻きが省略されている。
lulunが頼んだムニュ、gourmet goumandの一部
次の皿が驚き。Les Escalopes de Foie Gras de Canard Poêlées, Sel de Vanille, Moelleux aux deux Pommes, Réduction de Chardonnay、つまりフォアグラと薄切りリンゴのポワレ、バニラ塩付き。まずはフォアグラが実に軽くカリッと焼き上がって旨味を閉じ込め、それでいてさっぱりしている。ありえない。Loulou de Bastilleのフォアグラもおいしかったが、これは全く別のおいしさだ。甘酸っぱいリンゴとの組み合わせも絶妙。おまけにバニラ塩がびっくりだがこれが実に良いアクセントになっている。激うまだ。
kameが頼んだムニュ、Terroir et Créationの一部
もう一方はエスカルゴのトマトソース、牛足のフライ添え、La Nage d’Escargots de Bourgogne, Pied de Veau, Etuvée de Tomates, Tuile aux Champignons。予想したものとは全く違うプレゼンテーションだ。歯ごたえが絶妙なエスカルゴにフレッシュなトマトソースとなんだかわからないが緑色のソース、サクサクのパイ生地のハーモニーが嬉しいが、想定の範囲内でまとまっていてフォアグラのような驚きはない。いや、十分おいしいのだが、むしろトガニタンに入っているのと同じ牛足のコラーゲンがぷりぷりにして外はサクサクでとてもうまい。
Stéphane Derbord lulunが頼んだムニュ、gourmet goumandの一部
二皿目も感動的だった。Les Queues de Langoustines Croustillantes, Pain Perdu et Brochette de Morteau, Fumet Emulsionné au Safran、つまりテナガエビの春巻き揚げ、パンペルデュー、サフランのソース。もちろんテナガエビはぷりぷりでサクサクに揚がっていてうまい。特にシッポがカリカリだ。ラタトゥイユを挟んだパンペルデューも良いが、ここでの主役は甲殻類のダシがすごく効いたソースで、こいつがとにかくうまい。
Stéphane Derbord kameが頼んだムニュ、Terroir et Créationの一部
もう一方はLe Paleron de Bœuf Charolais Fondant(当日はfilet de boeufに変更), Crème et moutarde Gratinée, Nage de Légumes de Printemps au Thym brulé、つまり牛のフィレ、マスタードクリームのソース、春野菜の煮込み。写真は撮っていないのだがこの分厚い肉の焼き加減が素晴らしい。まんべんなく美しい赤色で実にジューシー。クリーミーなマスタード味のソースも良く合っている。地味ながら春野菜も適度な火の通り加減でおいしい。
メインディッシュの後はもちろんチーズ、Les Fromages Affinés。ワゴンでしずしずと持ってきて、一通りの説明をしてくれるのだがどれも聞き慣れない名前なのでよくわからない。lulunは確かbrillat-savarinとépoisseを選んだのだが、kameはマイルドな地元産のものをセレクトしてもらった。結果的にlulunが選んだ二種とかぶってしまったので、後になって戦略を過ったと悔やんだ。どれもおいしいが奥に写っている茶色いホコリのようなものにまみれたチーズがとても良い。面白かったのはほかの客もどうやら似たようなチョイスをしていたらしいことだ。みんなもヤギ系は苦手なのだろうか。
前回来た時の記憶はとにかくおいしかったというぼやけた印象になってしまっているが、二つだけ忘れられないポイントがある。シャブリのワインがすごくおいしかったことと、やや先行してコースを食べていた隣のテーブルに次から次へとデザートが運ばれてきて「ひえー、そんなに食べられないよ」と青くなったことだった。後になって判ったことだが、隣はデザートのコースを注文していたのであって、こちらのテーブルにはそんなに大量のデザートは来なかったのだが。
そうは言ってもやはり今回もデザートの前菜が登場。さっぱりした柑橘ゼリー、プラッムっぽい和菓子的なもの、アジア風味のマンゴーマカロン、カシスのパウンドケーキ的ものが二人分運ばれてきた。爽やかな酸味のゼリーと、小さく凝縮された個性的なフルーツの味わいが光る。kameは既に満腹に近いので完食は断念。
lulunが頼んだムニュ、gourmet goumandの一部、Dégustation des Desserts(デザートの盛り合わせ)
lulunの方のムニュではデザートを少しずつ味見できる「お試しセット」を選択できる。左からパッションフルーツの何か、L’esquimau mangue épicée(マンゴーアイスのチョコ固め)、Le chocolat Araguani- framboises, Feuille à feuille glacé(イチゴとクリームのさっぱりパフェ、ラズベリーとチョコのアイス)。
kameが頼んだムニュ、Terroir et Créationの一部。Le millefeuille caramélisé à la Cassonade, Crème Légère aux Fraises et Gousse Vanille(ミルフィーユ)
kameはミルフィーユを頼んだが、これもまた皮がぱりぱりでクリームもおいしい。やや酸味のあるイチゴソースが良く合う。超満腹。
Stéphane Derbord ムニュに付属のデザートのデザート?
最後には口をサッパリさせるためかジュースが二種類登場。左がジンジャーと洋梨の炭酸ドリンクシャーベット入り、右が柑橘系の酸っぱいジュース。いずれも甘さは控え目で酸味とわずかな苦みのバランスが良い。
満足し切って店を出たのは11時前だった。3時間半近く食べ続けていたことになるが、その割には時間が経つのが早かった。小雨の降る真っ暗になったディジョンの街をホテル目指して歩くが、あまりにも満腹なのでなかなか足が前に出ない。途中から土砂降りになるが走ると胃に衝撃を与えるので大雨の中をゆっくり歩いて帰った。
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コメント
帰国後調べて分かっ
帰国後調べて分かったことだが、Stéphane Derbord は Jean-Paul Thibert の弟子ではなく、レストランの場所だけ受け継いだみたい。Fouquet’s や Guy Savoy で修行した後、ブルゴーニュの Cosnes-sur-Loire に自分の店を持ったが、2001年の夏にその店を閉めてディジョンに進出したということだった。
いずれにしても、Thibert も Derbord もうまい。基本的に自分でワインをつぐことのできない固い店は避ける lulun と kame が納得してしまう味だ。