Nick Loweという名前は知っていたし、エルヴィス・コステロのプロデューサーだったりRockpileでベースを弾いていたことも知識としては持っていたが、なぜかニック・ロウ自身の音楽を聴いたことがなかった。
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Damrosch Park
初めて意識的にニック・ロウを聴いたのはNPRのAll Songs ConsideredポッドキャストにあったWilcoの前座を務めた時のライブだった。この時初めてCruel to be Kindがニック・ロウの歌だということを知った。あの曲がkameの少年時代にラジオで流れていたのは1979年だったのか。ニック・ロウは本人よりも曲のほうがよく知られている、と言われているそうだがその通りなわけだ。
このWilcoと一緒にCruel to be Kindを演ってる動画なんかシビレル。
そのニック・ロウがLincoln Centerの野外コンサートに出る。Lincoln Center Our of Doorsというシリーズで、長い間工事していたのは知っていたが、野外ステージができていたとは。今までProspect Parkの夏の野外ライブには何度も行ったが、その兄弟分にあたるLincoln Centerのシリーズには行ったことがなかった。
ここではRoots of American Musicというシリーズが毎年開催されていて、そのロカビリーのセッションにニック・ロウがトリで出るというのだ。
開催は土曜日の夕方なので天気の様子を見てのんびり出て行けばいいや、ととりあえずカレンダーに予定を書き込んだ。前日にスケジュールを再確認したところ、おお、なんとJames Burtonも出演するではないか。初めて見た時には気が付かなかったから最近になって決まったのだろうか。バートンといえばエルヴィスのギタリストとして有名だが、kameが知っているのはJ.J. CaleのShadesに入っているPack My Jackでの演奏だ。そのバートンも観られるなんて嬉しいおまけが付いた。
当日の午前中はSummer Streetsを走ってからCholaでしこたまお昼を食べ、一旦帰宅してだらだらして5時頃に再度自転車を駆ってLincoln Centerへ。8月とは思えない快適な日でコンディションは完璧だ。
6時20分前に会場に到着。ひょっとするとBuddy Guyの時みたいに混んでて近寄れないんじゃ、と心配したが席はまだ半分も埋まっていない。最前部はVIP席のようなのでその少し後ろの席を確保。夕日が眩しい。
James Burton, Sleepy LaBeef
James Burton, Sleepy LaBeef
6時頃になってステージにわらわらと男たちが現れてチューニングしたりしてる。中でもやたら元気のいい青い帽子をかぶった爺さんがいて、そいつがステージ左手に置いてあるテレキャスを手にする。おお、これがJames Burtonではないか。もう70代なのに動作もキビキビして全然老人っぽくない。たいしたもんだ。
Di Blasio市長候補
Di Blasio市長候補
いよいよ開演、かと思ったら主催者の挨拶があってスポンサーを列挙したりするのだが、楽屋の賄いはZabar's、アーティストの旅費はAmtrakというのが草の根的で好ましい。続いて市長候補のDi Blasioの演説。kameはここで選挙運動していいのか?と思いながら聴いていたが、lulunはさすが政治家、はっきり喋って英語がわかりやすい、と妙なポイントに感銘を受けたようだ。そうしてようやく開演。
James Burton
James Burton
最初はSleepy LaBeefという巨体の男を中心に古いロカビリーの曲を連発。Sleepyは外観もだが声も野太くてブルースマンの方が似つかわしい。ここでの見どころはもちろんジェイムス・バートン。名手で鳴らしたギターは健在だし本人も楽しそう。今バートンの動画を探しててえらいものを見つけてしまった。
スプリングスティーン、トム・ウェイツ、エルヴィス・コステロ、ジャクソン・ブラウンがこんなに若い時にオッサンだったバートンが今でもこんなギター弾いてるってすごいじゃないか。
で、Sleepy LaBeefのステージはバートンのギターをたっぷりフィーチャーしてくれていたのだが突然中断。次のJohnny Powersを出さなきゃいけないから、ということらしい。
Johnny Powers
Johnny Powers
そのPowersのステージは50年代のロカビリーそのまんま。スラップベースだけ若いがあとはオッサンで、Phil Schiller似のギターなんかポケットから櫛を出してリーゼントの髪(まだある)を梳かしたりしてる。かれこれ50年ずっと同じことやってるんだとしたらそれはそれですごい。バンドとしても一体感があるので日頃からこうやって演奏活動をしているのだろう。Sleepyのセットが寄せ集めで、メンバー紹介しようとして名前が出て来なかったのとは対照的。
Johnny Powers
Johnny Powers
Johnny Powersのバンドは数曲やって引っ込み、再度Sleepyが登場。lulunが言うにはPowersはシカゴから来ているので帰りのAmtrakに乗りに行かなきゃいけない、というのは本当だったら楽しいところだ。実際にはシカゴ行きの列車はこの時間にはとっくに出ている。
Charlie Gracie
Charlie Gracie
ジェイムス・バートンはギターが入ったケースを持ってステージの袖を歩いていたので帰るのか、と思ったけどやっぱりもう出てくることはなかった。残念。SleepyとバンドはCharlie Gracieというちっちゃな爺さん、続いてGene Summersと演奏して退場。
Gene Summers
Gene Summers
休憩を挟んで現れたJason Isbellは若いしバンドも若い。どんな音を出すんだろ、と思ったらジョン・メイヤーかスプリングスティーンみたいなコード進行に歌を載せていくタイプ。バンドも控えめだがタイトでさっきの年寄りたちと比べたらずっとプロっぽい。
Jason Isbell
Jason Isbell
フィドルの女性は日頃は前座で歌っているそうで、今日は出番がないからここで一曲、とJason Isbellが言ったら「あ、今やるの?」とここだけ緩い。Amanda Shiresという人で、Bulletproofというちょっと不思議な雰囲気の歌を披露した。
Jason Isbell
Jason Isbell & Amanda Shires
数曲やってギターをレスポールに持ち替えてさらに続ける。やはりコード進行で曲を組み立てているのだが、なかなか気持ち良いコード進行もあってそういうのは良い曲に仕上がっている。ギターの腕もなかなかだ。
Jason Isbell
Jason Isbell
ステージのセッティングのためまた少し休憩。後ろを振り返ると席は全部埋まっている。ちゃんと最初から観ていて正解だった。
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賑わう客席
いよいよニック・ロウが登場。
Nick Lowe
Nick Lowe
ギター一本で、しかもコードをかき鳴らすだけのシンプルなバッキングで次から次へと曲を繰り出してくる。曲自体も短いし、語りもあまり入れずひたすら歌、拍手、歌の繰り返しなのでポンポンと進む。ギミックゼロで持ち時間内にできるだけ多くの曲を歌いたい、という姿勢がよくわかる。やっぱり根っからのソングライターなんだなあ。
客席からのリクエストに "So many songs, so little time" と答えるほどで、確かに People Change や All Men Are Liars といったkameが期待していた曲も出さずじまい。だがもちろん Cruel to be Kind ではイントロで拍手が沸くし、kameや隣の酔っぱらいは一緒に歌う。こいつをやらなかったら帰してもらえんだろ。
Nick Lowe
Nick Lowe
このところは新作をレコーディングしていてあまりライブをやっていない、と言いつつ新曲を披露。クリスマス向けだというので当分発売にはならないだろうがこれも楽しみ。
Nick Lowe
Nick Lowe
アンコールにWhen I Write the Book、そうして(What's So Funny 'bout) Peace, Love and Understandingのイントロを弾きだす。もちろん拍手。だがそこで「あ、でもこんな暗い曲はやめとこうか」なんて悪い冗談。当然客席は猛反対。ここでもみんなで歌って気持よく終了。
とても気持ちの良い晩の気持ちの良いライブだった。元気なニック・ロウとジェイムス・バートンが一緒に観られるなんて滅多にない機会だ。これからも元気でやってほしい。