そもそもの発端はリック・ニールセンがコレクションの一部をReverb.comに売りに出した、という情報だった。もう歳だしクラプトンみたいに思い切って処分するのか、と見に行ってみると数は少ないしわりとどうでも良さそうな機材しか出てない。なーんだ、けっこう出し惜しみしてるじゃないか、と少し安心した。
リックのギターはさすがに値が張るしその時点でほとんど売れていたのだが、あのリックのギターを自分にものにできるという発想は新鮮だった。Reverb.comは楽器専門の売買サイトで、個人や業者が売りに出している楽器が山のようにある。
なんとなく眺めていくと、オールドものの値段はびっくりだが、普通の楽器はわりと手頃ではないか。昔は貧乏だったし、輸入品は高かったのが当時と今の受け止め方の違いだろうか。フェンダー系のギターの部品を組み合わせたものがPartscasterと呼ばれることも知った。音的にはストラトが欲しいのだけどストレートなストラトはいかにもすぎてちょっとつまらない、というへそ曲がりには魅力的。
ふうん、これなら半分冗談で一本あってもいいかな、老後の趣味にできるし指を使うのはボケ防止にもいい、弾かなくても飾っておくのもありだし、とCraigslistで安いギターを眺めるようになってしばらくして、ペイントがボロボロに剥がれた水色のテレキャスターが目に留まった。スーザン・テデスキがLive in Austin TXのジャケットで持ってるようなやつだが、ピックガードは白で指板はメイプル。けっこう魅力的なんだけど以下の理由で見送った。
- メイプル指板は嫌
- ストレートなテレキャスはちょっとつまらない
- コンディションの良否を判断する自信がない
- シリアルナンバー不詳(フェンダージャパンの安物だったら嫌だ)
- Craigslistの取引は面倒
- ケースが付属しないのでどうやって持って帰るか
逆にこの過程でどんなギターがいいのかが明確化したのは収穫だった。どうせ一本しか買わないんだからちゃんとした楽器屋が売ってる方がいい、と再びReverb.comに戻ってPartscasterを眺めると、おお、レスポールJrのボディにテレキャスのローズネックを組み合わせたやつがあるではないか。kameはフェンダー派だがレスポールJrは好きだ。水色で適度にボロいしパーツはなんか高そうなものを使ってるみたい。
数日悩んでからlulunに実はギターが欲しいんだけど、と打ち明けるとなぜか喜んでいるようなので早速ポチった。歳を取ると残り時間が短い分悩みが浅くなるというか、少なくとも悩む時間が短くなるようだ。
買ってから説明を読み直すとボディはRosser、ネックはOlivewoodというカスタムメーカー製。どちらもアメリカの田舎の零細企業っぽいところが好ましい。
ペイントはツヤ消しの水色。もっと剥げていてもいいぐらいだがいずれ進行するだろう。
ピックアップはフロントがSeymour DuncanでリアはLindy Fralinということのようだ。ダンカンは聞いたことがある。リアのLindy Fralinは出力とカーブが選べるのだが、このピックアップはけっこうパワーがありそう。オールドフェンダーというよりはノップラーの赤いSchecterに近い音のようだ。
ペグはGrover。
良い物を安く、という方針でパーツを組み合わせたPartscasterとはまさに俺好み。同じように考えた人があーでもないこーでもない、と考えて組み上げたギターなのだろうか。
これでギター本体は片付いたが、色々と周辺機器も必要だ。軽く探しただけでiPad用のギター・アンプ/エフェクトアプリがいくつかある。iPad用インターフェースはiRigというのが安くてポピュラーらしい。ピック、予備の弦(握力に自信がないので0.9)、1mのシールド、カポとともにこれもAmazonでポチリ。スライドバーはまだいい。
ギターはトロントからやってくる。通関の際に書類が足りないとか、送り先の住所が間違っていた(別の客とデータが混ざったらしい)とかトラブルもあって、周辺機器のほうが先に届いた。iPadにAmpliTubeを仕込んで準備万端。
待つこと数日、ようやくギターが届いてiRigを介してiPadにつないでみる。あれ?音が出ない。Macに挿してもライン入力を認識しない。iRigのIK Multimediaのサポートは色々と確認事項を指示してくれてそれはそれで役に立つのだが、どうやっても認識しない。まあこれだけ色々接続に失敗する可能性があるポイントがあるというのはそれなりにハードルが高いということだ。
シールドを挿してもカチリとはまる手応えがないので、どう考えても接触不良だろうとさっさと返品してeBayで別途買い直したらあっさり認識した。おお、音が出る。そうこうしている間、買ったはずのピックが見当たらないので近くのギター屋に買いに行った。ベランダから投げた記憶はないのだが。
ソフトはAmpliTubeのほかJamUp、AmpKitというのが見つかったのでとりあえず落としてみる。どれもベーシックな機能は無料で、アンプやエフェクトの種類を買い足すというビジネスモデルだ。ざっと試してみたところiPadに仕込んである曲を再生しながらギターの音を鳴らすという機能がJamUpにしか見当たらなかったため、当面JamUpを使うことにし、早速アンプの種類を買い足した。JamUpを出している会社はBIASというアンプを自作するソフトも出しているのだがそこまではしなくてよろしい。
30年ぶりだしギターを所有するのは初めて(ベースは持ってた)なのでイメージの通りに手が動かないのはまあ当然だろう。短時間でもほぼ毎日手にして少しずつ上手くなれば良しとしよう。これから死ぬまでゆっくり楽しむのだ。