チベット仏教のアートを専門にしているRubin MuseumというものがあるのはChelseaに住んでいたことに知った。そんなものがあるとはさすがNYC、と思ったが見に行くほどでもないのでそれっきりだったが、しばらく前にそこでLoudon Wainright IIIが演奏するという話が聞こえてきたのだ。
なんでも時々マイク・アンプ一切なしの完全アンプラグドのライブをやるらしい。ラウドンは大昔にリチャード・トンプソンと組んだ渋谷ライブインでの伝説のギグを観たが、わざわざ行くほどのファンではない。だがそこにAnthony D'Amatoが出るという。
そこでNaked Soulというシリーズのことを知ったわけだが、文字通り生の演奏、つまりそれだけ小さい会場でAnthony D'Amatoの歌が聴けるなんてすごいことではないか。急いでチケットを買おうとしたらお値段はたった$20。こんなに贅沢なのにこんなに安くて申し訳ない。
ならほかの日にはどんな人が出るのか、と調べていくとAri Hestという人がなかなか良い。Anthony D'Amatoほどメロディアスではないがなかなかいい感じの曲を書くし声もいい。こういうローカルなシンガー・ソングライターの層の厚さはさすがアメリカだ。最近ではなんとJudy Collinsと組んだアルバムも出しているので実は意外とメジャーなのかもしれない。
Auntie Guan'sで腹ごしらえをし、会場のRubin Museumへ。金曜の晩だからか入口すぐのバー付近は大いに賑わっている。会場は地下なのでそちらへ向かうと、ちょうどドアが開いて客が入りだしたところだった。やや出遅れたので真ん中あたりの席をゲット。ほかの客はけっこう上のバーから飲み物を買ってきている。次回は真似しよう。
7時を回ったところで美術館のスタッフの挨拶があり、続いてAri Hest登場。アメフト選手のようなびっくりするほど立派な体格なのが意外だが、ステージを共にしているのが東洋人女性だからというのもあるか。いや、二曲目から出てきたパーカッションのおじさんとくらべてもだいぶ大きい。とても穏やかで優しそうな感じの良い大男だ。
数メートル先でギター、バイオリン、控えめなパーカッションと3人の歌声が鳴る。派手さはないがじんわりと心にしみる。最新アルバムは少人数のステージで再現できるサウンドにしたと言っていたが、MelissaとDougがバックに付くのは新しい曲ということかな。リクエストがあったから、と言って一人で演奏したHolding Onはオリジナル録音にあったアレンジがない分曲と詩の良さが際立つ。
背後の画面に仏像が映し出されたる。ライブの前に館内展示物を一つ選んでそれに関連のある曲について語るという少々ひねった企画があるようだ。Ari Hestは三回目だそうだからネタ切れを心配しなければならないかな。
だいぶ声が嗄れてきたけど本人は楽しそう。そうだよな、こんなに小さい会場で照明もほぼ一定だから客席の様子もよく見えるだろう。上品でいっぱい拍手する好意的な観客だから気分悪くはないはず。
ピアノに移って数曲。上手いというほどではないがちゃんと弾ける。ギターの腕も確かだしジャズっぽいコードも使うのでそれなりに音楽の素養があるのかな、と思ったら両親は音楽家のようだ。耳が良いのも良し悪しで、さかんにギターのチューニングをしている。
そんな家族がいたからか、自分でレコードを買ったことはあまりなくて家にあったビートルズ、ビーチ・ボーイズ、ツェッペリンなんかを聴いていたらしい。「それからもちろんポール・サイモン」と言ってStill Crazy After All These Yearsを演奏。
「もう門限過ぎてるけど」と最後にもう一つ新しい曲をやっておしまい。Dougが椅子の上に乗ってもこの身長だ。あとでわかったが同じ会場で9時からはまた別のイベントがあるらしい。Rubin Museumの金曜日は忙しそう。
6月には本命Anthony D'Amatoを観にまた来る。次回は早めに着いて3列目ぐらいの席を狙おう。