NYで暮らすようになったおかげで幸せなことに好きなアーティストの大半を生で観る機会に恵まれた。kameのlast.fmのチャートの上位にいながらまだ観るチャンスがないのはTom Waitsぐらい。多分山崎まさよしとBeginはNYには来ない。
Beacon Theater
Beacon Theater
残るIron & Wineは数年前にTerminal 5という会場でのライブがあったのだが、背の低い日本人には立見オンリーの会場は厳しいのでパスしたことがあった。それからずっと待っていたが、Iron & WineがBeacon Theaterに登場するという情報を入手したのが今年の2月。幸いチケットは入手できた。
それではきちんと予習しましょ、と調べてみると、おお、5月に新譜が発売になるではないか。それに合わせてのツアーということらしい。発売に合わせてCDを予約するなんていつ以来だろうか。
そのGhost on Ghostを聴いて正直ちょっとがっかり。前作Kiss Each Other Cleanでもその傾向は見て取れたのだが、大編成のバンドと一緒に出すサウンドを面白がっているようで、初期の囁くような歌と美しいメロディーの存在感が薄れているのだ。いや、Kiss Each Other CleanはTree By the RiverやHalf Moon、Godless Brother in Loveといったメロディアスな曲もあるのだが、Ghost on Ghostで同水準の出来なのはBaby Center Stageぐらい。
Beacon Theater
入り口のホール
期待は多少萎んだものの、ちゃんと予習してGreat Burritoで腹ごしらえをしてから会場に向かった。7時を少し回っているのでおそらくだいぶ人だかりができているのでは、と思ったのに拍子抜けするぐらい人がいない。入り口のホールもがらんとしている。ボストン・マラソン以来警備が厳重になったから早めに来るように、という話だったのに。
しばらく待たされてから席につく。3階だが2列目なので悪くはないだろう、と思ったのだがちょうど手すりが微妙に邪魔になるのは誤算だった。派手な装飾の天井がすぐ近くに見える。
8時になってもまだ半分も客が入っていない。でもそれは3階席の話で1階はそれなりに埋まっているようだ、と思ったのは前座のSecret Sistersが登場した時。以前のリチャード・トンプソンの時と同様、客席は前座も暖かく迎える。Secret Sistersは本当に姉妹で、姉のLauraが「サンキュウウ」と言うのが妙に可愛くてこれはどこかで聞いたことある、と思ったら、そうだ、スーザン・テデスキと似てる。二人はアラバマの出身だそうだから南部の女性はこんな感じなのだろうか。
Beacon Theater
Secret Sisters
そのSecret Sisters、声質も似ているしハーモニーもぴったり。カントリーっぽいところもあるが、歌い方にわずかに黒っぽさを感じる。教会に通ってゴスペルを聴いて育ったからだろうか。途中で「一本しか持ってないわけじゃないけど」と言いながらギターを交代。
Beacon Theater
Secret Sisters(ギター交代後)
40分ほどの演奏が終わり、満足そうなSecret Sistersがステージを去った。けっこういいけどわざわざまた観に行くほどでもないか。
9時を過ぎてIron & Wine登場。なにしろ総勢13名という大所帯なので全員用意ができるまで時間がかかる。バックボーカルx3、ストリングスx3、ホーンx3なのでこれだけで9人だ。あとはドラムス、ベース、キーボードとSam Beam。
Beacon Theater
Iron & Wine(準備中)
1曲目はGhost on GhostのThe Desert Babbler。おお、あの声だ、と当たり前のことに感銘を受ける。予想通り新作の曲が多く、Ghost on Ghostからは7曲。まあレコーディングしたばかりだから練習しないでいいのはわかる。やっぱりバンドで音出すのが楽しいのかな、という印象を受ける選曲だ。演奏を始める前に「静かなのを聞きたい人もいるだろうけど、悪いけどこのバンドがノリノリでね」と言っていた通り。ツアー4日目だがここまでの観客の反応が大方わかる。
Beacon Theater
Iron & Wine
Samは意外とヘラヘラ喋る奴で寡黙な芸術家というイメージとはギャップが大きい。まあプロのエンターテイナーだし、リラックスしてそうなのでこれはこれでいいか。
中盤はサムのソロ。観客は大喜びで、バンドがいる時と比べて歓声の大きさと長さが倍ぐらい、それに混じってリクエストの嵐。みんな声がでかくて羨ましい。Flightless Bird, American Mouthをやってくれたのは嬉しいが、setlist.fmによると翌日はSixteen, Maybe Lessを演奏しているではないか。これは聴きたかった。
Beacon Theater
サムのソロ
途中「ええと、こうだっけ?」と曲を思い出そうとしたり、歌詞を忘れて「ああ、やっぱりファックアップしちゃった」と苦笑いをしつつ、「もっと練習しとかなきゃ」。でも「古い曲練習してたら新しい曲書けないだろ?」
Beacon Theater
Iron & Wine
ソロは4曲だけで再びバンドが登場。「あと一曲」と言って始めたのはラストにふさわしいBaby Center Stage。一度退場してからアンコールに出てきたのはサム一人。そりゃNaked As We Cameをやらなきゃ帰れんだろ、と思っていたら案の定やってくれた。もちろん会場は大喜び。後日わかったのだが、このツアーでアンコールにNaked As We Cameをやったのはこの日だけ。我ながら幸運だった。
Beacon Theater
Naked As We Cameを歌うサム
1時間40分ほどの演奏だったが、あっという間に時間が過ぎた。できれば一度ソロでオールリクエスト、それも声が通らない人が不利にならないようにリチャード・トンプソン方式でお願いしたい。バンドものもいいけどCalexicoと組んだIn the Reinsぐらい控えめな演奏にとどめておいてほしいところだ。