NYCに移り住んで8年、まだ生きていてツアーをしていて観たいと思うアーティストは制覇したと思っていた。ところがある日Elvis CostelloがTown Hallでソロ、Beacon TheaterでThe Impostersを引き連れたギグを行うという情報が入った。そうだった、コステロがまだだった。
Elvis Costello & The Impostors at the Beacon Theater
kameが音楽に目覚めた70年代終盤のロンドンはパンクの嵐が吹き荒れ、ニューウェーブが台頭してきた時期だった。エルヴィス・コステロなんてふざけた名前の冴えない男はArmed Forcesをリリースし、寮ではAccidents Will HappenやOliver's Armyが鳴っていたものだ。
その頃コステロはそれなりに有名だったのだが、当時のイメージではちょっとバカにされてた感があって、昨今では大御所とされている世間の扱いが今ひとつ馴染めない。以前一度コステロがNYに来た時にはチケットを取り損ねたし、今回もあまりにも悪い席しか残っていないので一度は諦めたのだ。その後11月7日に追加公演が決まって、それでも取れたのは二階席前方だけど左端。二晩連続ソウルドアウトとはえらい人気だ。
当日もJin Ramenで腹ごしらえをしてBeacon Theaterに着いた頃にはダフ屋がわらわらといた。ここまで多いのは初めてではないか。
Elvis Costello & The Impostors at the Beacon Theater
会場に入って二階へ。確かに端だけどステージはけっこうよく見える。ここは二階と三階が前方にせり出していて、下手に一回席の後ろの方よりよく見えるし音もいい。そういえばTedeschi Trucks Bandの時は背の低い人がかわいそうな目にあっていたっけ。
このツアーはImperial Bedroom & Other Chambersと銘打っている。Imperial Bedroomは高校時代にかなり聴き込んだ。Armed Forcesも好きだが個人的にはこいつがコステロのベストだと思う。それぐらい充実している名盤だ。
Elvis Costello & The Impostors at the Beacon Theater
コステロにあまり馴染みのないlulunのために予習プレイリストを作ったのだが、もっとImperial Bedroomの曲を入れておくんだった、と開演前のステージを見て思った。Imperial Bedroomのジャケットはピカソっぽい絵なのだが、それと同じ雰囲気の絵が画面に映し出されている。こりゃ楽しみだ。
Elvis Costello & The Impostors at the Beacon Theater
8時前になって会場が暗くなり、赤い帽子に赤いセミアコのコステロがバンドを従えて登場。The Impostersの3人に加えて女性ボーカルが3人と賑やかだ。Attractions時代のライブはコステロ以外に歌う人がいなくてちょっと寂しかったからこの構成は過不足なくていい感じ。
Elvis Costello & The Impostors at the Beacon Theater
コステロは例のハスキーな声で、オッサンになった分太ってはいるが元気そうで動きもキビキビしている。スタジオでは控えめなギターもステージではけっこうしっかり弾いてくれる。
バックのThe ImpostersはThe Attractionsからベースが交代しただけでほぼオリジナルメンバー。知らない人はたかがベース、と思うだろうがBruce ThomasはキーボードのSteve Nieveとともにコステロ・サウンドの要だったのだ。コステロとブルースは何度も喧嘩したらしい。代わりのベースも堅実だしオリジナルをよくコピーしているがここはちょっと残念。
Elvis Costello & The Impostors at the Beacon Theater
曲目はほとんどkameが知っているもの、つまり古い曲が多いのだが、ライブでやろうとはまず思ってもみなかったGreen ShirtやThe Long Honeymoonといった地味な曲も出てきた。
Elvis Costello & The Impostors at the Beacon Theater
コステロはステージでけっこう喋る。
コステロ「今日はクリスマス・イブみたいなもんだな。煙突からどんなプレゼントが降りてくるか、明日になればわかる。待ちくたびれたよな。もう嫌になったか?」
観客「ノー」
コステロ「いや、このショーのことじゃなくて…わかるだろ?」
明日は11月8日、大統領選挙だ。
Elvis Costello & The Impostors at the Beacon Theater
Watching the Detectivesは女の子が一緒にいる時にTVばかり見てて相手にしてくれない、という歌だそうだ。「彼女が見てたのはStarsky & Hutch。あのDavid Soulってやつはモテるな」
Elvis Costello & The Impostors at the Beacon Theater
コステロは自分の曲の登場人物がその後どうなったか考えたりするという。The Long Honeymoonは男が去った後のWatching The Detectivesの女という設定だそうだ。ほかにもImperial Bedroom収録の頃の話をけっこう交えてくるの。アルバムのジャケットはレコーディングが終わってできたテープをアーティストに送って描いてもらった絵で、「ビーチ・ボーイズみたいなサウンド」だったのにあの絵が出来たそうな。それにしても当時コステロは26歳だったとは。
Elvis Costello & The Impostors at the Beacon Theater
18曲目のPidgin Englishでメンバーがステージを去る。Alisonをやらないで終わるわけないだろ、と思っていたらアンコールにコステロと女性ボーカル二人が一本のマイクを囲んでAlison。これは憎い。
Elvis Costello & The Impostors at the Beacon Theater
続いてコステロがピアノでかなりスローにアレンジしたLittle Savage。ピアノも上手いじゃないか。言われてみればギターじゃなくてピアノで作ってそうな曲も多い。
Elvis Costello & The Impostors at the Beacon Theater
次はSteve Nieveにピアノを譲ってShot With His Own Gun。Steveは19歳の時に王立音楽院から引き抜いてそれ以来Attractionsで一緒にやっているそうだ。確かにクラシックをしっかりやったテクニシャンという印象。
Elvis Costello & The Impostors at the Beacon Theater
このあたりで「まだアンコールやるのか?」と思うのだがまだまだ甘い。Beyond Beliefで観客は大喜び、続いてMan Out of Timeで盛り上げ、Town Cryer、そしてメンバー紹介を織り込んだEveryday I Write the Bookで締める。ボーカルの二人はずっと踊り続けですごい体力だ。
Elvis Costello & The Impostors at the Beacon Theater
ここまでで28曲を消化。遠くなのか帰った客もいる。もったいない。
Elvis Costello & The Impostors at the Beacon Theater
続いてコステロがピアノで弾き語り。Pump It Upが出ていよいよ最後か、となってPeace、Love and Understandingで本当に終わり。
Elvis Costello & The Impostors at the Beacon Theater
時計を見たら10時45分。会場に入る時に列の前の客と係員がなにか言葉を交わしていて、「3時間」というのが聞こえた気がしたのだったが本当に3時間だった。全部で33曲、しかも途中全然手を抜いた様子がなかった。観てる方が疲れるぐらいなのに。
まず間違いなく2016年でベストのショーだった。Imperial Bedroomをほぼ全曲やってくれたのも大きいが、元気でまさにプロフェッショナルなコステロの力投ぶりが素晴らしい。これを機会にしばらくコステロを聴き込もう。